君の全てに祝福を

最初からクライマックス。騎士殿と聖女様がひたすら睦みあっているだけ。

一部の皆様はお待たせしました。

作者自らが『還り着く場所』本編終了後のジルジャン二人による愛の営みを綴るセルフパロディシリーズ、『聖女と騎士、愛欲の日々』その1です。
当初予定していたシリーズ名が「ジルとジャンヌのあだるとらいふ」だったのは秘密です。

シリーズということで、いくつかシチュエーションのアイデアについては構想があるのですが、いずれも作者のマニアックな趣味を反映した内容になっているので、形にするのにあたって微妙に躊躇している部分もあり、続きに関しては、今回の話の反応を見ながら、気が向いた時にふらっとまた書く予定という感じで、あまり期待しないでお待ち下さい。(←)

 

◆◆◆

「ジャンヌ……っ」

縋るように呼びかける己の声は、驚くほど濡れていた。

ふいに襲ってきた刺激に息をつめると、また奇妙な調子で語尾が上がり、ジルをよりいっそう情けない気分にさせる。
なんとか呼吸を整えようと深く息をついた後、どこか焦点の曖昧な瞳をゆっくりと動かす。

乱れた着衣。灯りの下に曝された抜けるように白い肌は、その下に流れる血潮の熱さが増す度に、より妖しく艶やかに色付いていく。
浅い呼吸に上下する胸元から引き締まった腹筋にかけては、既に幾つも紅色の花弁が散り、青年の媚態を彩る。

そして更に視線を落とした先──寝台に浅く腰かけた下肢の付け根にはしなやかな肢体が割り入り、彼を翻弄していた。

「んっ……ふぅ……ん」

鼻にかかった甘い吐息を洩らしながら、ジャンヌはジルの下肢から勃ち上がったものへと一心に唇を寄せ、奉仕を続けている。

柔らかな朱唇が幹を食み、小さな舌がちろちろと熱く猛ったそれに媚薬のような唾液を塗り込める度、男の性は益々勢いを増して欲望を膨れ上がらせ、堪えようもなく先走りの蜜を流してしまう。

そんな彼が発情した証である滴をまた少女が愛おしげに舌先で絡めとり、更に男の快感と恥声を引きださんとばかりに、白い指先が根元から剛直を扱き上げ、尖った舌が蜜が湧き出す鈴口を刺激する。
されるがまま、本能に従い硬く張りつめた逸物が、少女の手の内で歓喜に震えた。

「あぁ……うっ……」

視界の中で亜麻色の柔らかな輝きがゆらめく度、寝屋の帳の内には慎ましやかな水音が響き、愉悦が全身へと広がっていく。
甘美な責め苦を受ける先端から生み出される魅惑の感覚に酔い痴れ、身体の内から魂ごと蕩け落ちてしまいそうだった。

ままならぬ己の身体への困惑を拭おうとするばかりに、ジルは色素の抜け落ちた長い髪をかき上げる。
しかし、そんな些細な動きですら、感覚の昂ぶった肉体には致命傷になってしまう。

常日頃男にしては主張の激しい事を気にしている彼の胸の頂は、先程白いシャツの上から指先で優しく、あるいは直接柔らかい舌先によって、とろ火で炙るような愛撫を受け続けていた。
てらてらと濡れていやらしく光を弾いているその突起は、青年の意志とは裏腹に、悦びに充血してふっくらと女のように隆起している。
そんな惨めな有様のそこへ、かき上げた腕の動きにつられて、シャツの布地が擦過する。刹那、感覚を絡め取った甘い痺れと腰まで響く疼きに、堪えられずジルの唇から苦鳴が漏れた。

「も、もう……あ……んっ」

切なく掠れる声。青年の哀れな懇願に、一瞬、愛しい少女の動きが止まる。つと潤んで色深さを増した蒼い瞳と視線が絡むと、ジルは己が頬が急ぎ朱く染まっていくのを感じた。
その反応を嬉しそうに目を細めて眺めていたジャンヌは、更に容赦のない慰めをジルへと施した。

「ジル……可愛い……」
「…………ああっ!」

高まりゆく吐精への欲求が、青年の意識を揺さぶり、その堅牢であるはずの理性を崩し始めている。
鼻を抜けていく喘ぎは熱く、濃密な淫気を放って脳髄を犯す。もはや理性では御することの出来ぬ感覚に、ジルはただ飲まれていくしかない。

普段はもっぱら彼の主導で行われる睦みあいの儀式であったが、今回ばかりは少し勝手が違った。

「ジル、今日は私にすべて任せて下さいませんか?」

頬を薔薇色に染め、目をきらきらと輝かせながら、そう彼女はジルに提案したのだった。

「え……」
「貴方が気持ち良くなれるように、私、とても勉強したんですから……
今日はたくさん貴方の感じてるところを見せて下さいね!」

そして戸惑うジルを尻目に、ジャンヌは驚くほど器用な手付きで彼の着衣を緩めると、彼が反駁する暇を与えずに、情熱的な唇でジルの言葉を封殺してしまう。
柔らかな感触。淡く漂い鼻腔をくすぐる少女の芳香。彼女が身に纏う何もかもが、青年に対し麻薬のように作用する。

あとはもう、されるがままだった。

青年が降り注ぐような愛撫といつになく積極的な少女の舌使いに呆然としていると、嫣然と微笑んだジャンヌは想い人の昂ぶりを愛おしげに指でなぞり、形を確かめるように撫で上げた後、迷うことなく舌先を絡めたのだった。

「っく……はっ…はぁ……っ」

理路整然とした思考をする能力は既に瓦解し、己の最も敏感な部分を覆う熱い粘膜の事しか考えられなくなってくる。
自慰を覚えたばかりの少年のように、ただ己の快楽を貪るまま、少女の細い腰を捉えて、官能に焼き爛れた肉の楔を柔襞の間に打ちつけたい。この身を流れ渦巻く獣欲の全てを彼女の身に吐き出してしまいたい──そんな堕落への衝動がジルを襲う。

今まではどれだけ目の前に晒される瑞々しい裸身へ本能的な支配欲や独占欲を覚えても、実際、ジルがジャンヌに奉仕を強いた事は一度もなかった。
確かに抗い難い肉の欲求は存在していたものの、ジルにとって何より大切なのは、ジャンヌの存在を直に感じることにあって、行為の内容自体にさほどこだわりはなかったのだ。
むしろ彼女の騎士である青年にとって、彼女に尽くすことこそ、本望であった。

ましてやジャンヌは、生前、異端審問の際に女性としての尊厳を深く傷つけらながら、魔女の汚名をきせられ処刑された過去がある。自分が肌に触れる事を許してくれるだけでも、充分その信頼と秘められた愛情を感じることが出来た。

ただ、その人と吐息を交わせるだけで──命の在り処を辿れるだけで満ち足りる。
一度は永遠に失ってしまったと思った愛だからこそ、彼女の存在自体が尊く眩しいのだ。
彼がジャンヌを求める理由はどこまでも真摯で純粋なものだった。

それゆえに、『あの』ジャンヌがこれほど積極的に動くのは想像出来なかったし、少女の手管が極めて巧みで激しいものだと、構えて臨む余裕もなかった。
今目の前に広がる光景は、気の遠くなるような快感と相俟って、ジルにはまるで現実感を伴わない、幻のように思えた。

これも神の知識の賜物なのか?
いや、まさかそんな──

考えかけて、下腹をくすぐる熱い吐息を感じ、また息が上がる。

猛ったものの根元から先端まで、はりのある舌先が何度も往復する。その間、粘膜同士が絡む濡れた響きに重なる慎ましやかな媚声が、ジルの興奮と快感を更に煽る。
添えられた指は時折先走りの露を擦り付けるように脈打つ箇所を滑り、優しく袋を弄んだ。
思わず達してしまいそうになると、寸でのところで引き戻される。ジャンヌの手技はあまりにも鮮やかで抜け目なく、ジルは何度も天と地との間を行き来させられた。

丁寧な愛撫はその人の自分に対する想いを表しているようで、無論悪い気はしない。でもそれ以上に自分がジャンヌへ悦びを齎したくて、快楽への全面降伏と男としての矜持の間で青年を懊悩させる。

「……ジル」

唾液と溢れ出たものによって照りを帯びた幹を、情欲に潤んだ蒼い瞳がじっと見つめている。薄く開いた唇は物欲しげに震えていて、細い腰が何かを焦がれているようにそろりと揺れた。
遠慮がちに刷り合わせられる太腿の奥に隠れたものが、どんな様になっているか……ジルの目にはありありと浮かぶようだった。

ジャンヌ──もういい。私は……貴女に触れたい。

そう言いかけた刹那、珊瑚色の唇に深く銜え込まれて、ジルは思わず腰を浮かした。

「う…んん……ッ!」
「ジャ、ジャンヌ……っ !? 」

口内を占めるものの大きさに、流石のジャンヌも苦しげに喉を鳴らす。

しかしそれでも決して唇を離そうとはしない。想い人の静止にも聞く耳持たず、うっすらと汗ばんだ額に張り付いた亜麻色の髪をかきあげ、男の欲望を更に深い場所へと導く。

「んっ……くぁっ……!」

くぐもった呻きが唇の端から唾液と一緒に漏れた時、先端が最奥を突いたことをジルは悟った。雷撃を受けたような快感が背筋を走り、均整の取れた身体が大きく仰け反る。

笑いの気配にジャンヌの肩が小さく揺れた。
そして鼻にかかる悩ましい媚声と共に、うっすらと紅を刷いた頬が窄まり、注挿が始まる。

「うっ…は……くぅ……っ」

身体全体を前後に揺らし、髪を乱して少女は奉仕し続ける。
そうしている間に、とうとう膨れ上がる官能を堪えられなくなったのか、空いた一方の手が下着の中に潜り込み、自身を慰め始めた。

卑猥な水音の二重奏に、部屋に漂う淫気が厚みを増す。

「は…んっ…んっ………ぅんっ…」

ジルの快楽をも己の愉悦として、ジャンヌは腰を蠢かせる。
清純そのものに見える可憐な美貌が、快楽に支配され淫蕩な色に染まっている姿は、見るものに果しない欲情を呼び起こす。

──この美しい人を乱せるのは自分だけ。

湧き上がる雄の本能によっていよいよジルの息は荒くなり、それに比例して擦り付けられる粘膜は熱くなっていった。

己に対する刺激を追い求めることに夢中になり始めたジャンヌは、駆け引きを楽しむかのような指遣いを放棄して官能の忠実な僕と化し、共に堕ちようとジルを誘う。

「ああ……だ、駄目だ……ジャンヌ……ッ!」
「ん───ッ!!」

青年の引き締まった内腿が痙攣すると共に、猛ったものの先端から白泉が噴き出した。
焦らされて焦らされて、ついに到達した快楽の頂点は、眩暈のするような衝撃と共に、後戻り出来ないような喜悦をジルの全身に伝播させる。

「───────ッ!」

一切の思考が消し飛び、視線は天井を彷徨うばかりで言葉も出ない。

解き放たれた後もいまだ腰の奥からじわじわと身体を冒す疼きがたまらなく心地良く、同時に恐ろしく感じる。だが、今脳裏を占めるのは困惑よりも快感の方が圧倒的で、己をここまで導いた人の身を慮ることは出来なかった。
脈動と共に吐き出される精液は、止めようと思っても止められるものではない。荒く息をつきながら、ジルとしてはただ逐情の余韻に浸るしかない。

「ジ……ルっ…はぁ……あ……」

やがて溜まりに溜まったもののを吐き切り、快楽の波が引き始めた頃。
弱々しく呼びかける声に、ようやくジルは自分が仕出かした事を正しく認識し始めた。

「ジャンヌ……」

慌ててそちらを見やると、床にへたり込んだジャンヌが、達したままの陶然とした視線をこちらに向けていた。

その愛らしい顔にはジルが放った夥しい量の子種の残滓が降りかかり、亜麻色の髪まで汚してしまっている。唇の端からは、唾液と呑み込みきれなかった白濁が入り混じったものが溢れ、上気した肌に光る筋を描いて顎へと滴り落ち、胸元まで濡らしている。なんとも淫靡で、それでいてどうしようもなく魅惑的な艶姿であった。
息もまだ落ち着いてはおらず、乱れた呼吸の合間を、彼女もまた悦楽に感じ入った様子でしなやかな身体を震わせている。

「……ああ……ジルったらこんなにたくさん……嬉しい……」

たゆたう悦感の中、うわごとのように唱えながら、ジャンヌは指先に掬い取った白い蜜を舌先で改めて味わうように舐めとり、破顔した。
無邪気とも言える微笑みに、ジルはまたどきりとする。いじらしくもいろめかしい麗姿は目の毒というもので、つい耳元で血液が流れめぐる音を意識してしまう。

「ふふ、いっぱい出したのに……まだ元気ですね……」

まだ先端から滲み出している快楽の残り香を丁寧に舌と唇で吸い上げ、ジャンヌがくすりと笑う。
彼女によって清められているジルの雄の証は、少女に指摘された通り、蠱惑的な少女の微笑みを前に、早くも勢いを取り戻しつつある。
我ながらこれほど性欲が強かっただろうかと呆れるばかりだが──全てはこの味わえば味わうほど魅力的な少女のせいだ。

「ジル……大好き……貴方の全てを愛しています……」

にっこりと笑みを深くした美貌が目の前に近づく。

「……ええ、私もです。ジャンヌ」

本当にこの人には敵わない──ジルは苦笑するしかなかった。

「だから今度は私が貴女に触れてもいいですか……?」

深い口付けが答えの代わりだった。
未だ少女の口腔内に漂う己の放った雄の匂いなど、気にはならなかった。
重ね合い、絡め合い、再び高まる熱が、途方も無い快感と魔力となって、そのまま唾液として二人の喉に流れ込む。

ジルは募る愛おしさで沸き立つ心が手付きを危ういものにさせるのを必死で抑えながら、被さるように預けられたその人の身体から不要な布を剥ぎ取っていく。
じゃれ合うようにして滑らかな肌の感触を楽しみ、豊かな胸の谷間に顔を埋めると、その様子を見て艶やかな微笑みを浮かべたジャンヌが、秘所を覆っていた最後の布地からすらりとした足を引き抜く。
肌と下着の間を、透明な糸が後を追うように閃き、揺れた。

もはや、二人の間を遮るものはなく、狂おしいほどに吹き出す互いへの独占欲と、その大きさや情熱をそのままに置き換えた官能への探求を抑えようとするものも、誰一人としていない。

この寝屋は、交わる二人だけで完結した、愛する恋人同士にとって至福の楽園。
全てを忘れて命燃やす互いの鼓動に没入出来る、神聖な場所──

「ジル……早く貴方で私を満たして下さい……」

自ら秘唇を指で割り開き、ジルを向かい入れようとするジャンヌのそこへ、青年の硬く反り返った屹立が宛がわれる。繋がろうとしている部分から、熱い滴が伝い落ち、彼女の羞恥と男の期待を嫌が応にも煽る。そして──

「ああああああっ!」

指で慣らすまでもなく、熱く蕩けて濡れそぼり、男の来訪を待ち侘びていた少女の最奥へと、ジルの猛った楔が打ち込まれる。
最初に身体を押し開かれる強烈な圧迫感は、何度交わっても少女の細腰には負担なのだろう。しかし、それでいて彼女の中の柔襞は、男の形にそってみっちりと締め付け、内から湧き出す蜜は芳しくも熱く火照りながら陰唇から零れ落ちて、ジルを誘惑する。
そしてジルもまた、彼女の誘いを拒まない。

己の最も浅ましく醜い部分を受け入れてくれる──なんと彼女は罪深く、尊い存在か。

「……ジャンヌ……やはり貴方の中が一番心地が良い……」
「っふぅ、ああ……っ!」

陶然とした呟きが青年の唇から漏れた後、荒々しい早駆けが熟れた果実のような悩ましい少女の身体を寝台に押し付け、ジルは何度も彼女の身体を突き上げた。動きの激しさに、目の前でジャンヌの豊かな胸が跳ねるようにして揺れる。媚びるように視界を上下する色付いた胸の突起に唇を寄せ、いやらしく音を立てて吸いあげてやると、少女が一際高い声で鳴いた。

「ジルッ……ジルッ……ゥ」

ただ欲望のおもむくままに腰を動かしているようでいて、少女の胎内を知り尽くした青年の肉の楔は、その具合を堪能しながら、彼女の弱い部分を的確に攻め立てる。
同時に少女の蜜壷の虜となっている彼の逸物は、根元まで媚肉に飲み込まれ、血管の中で沸騰しかけている淫悦の一滴まで搾り尽さんと、先端まで扱き上げられ、彼女の中で官能を弾けさせたい欲求に逆らえなくなっていく。

そうしている間にも、より交わりを深いものにしようと、無意識のうちにジャンヌは青年の腰に足を絡め、彼の動きに合わるように、少女の下肢は淫靡な舞踏を刻み始めた。

正気を失いかけた男女の喘ぎ声と、寝台の軋む音。互いに腰を摺り寄せあう度、より快感が昂ぶっていく。粘膜同士が擦れ合う卑猥な水音は、鼓膜すら冒し、喜悦の坩堝へと二人を堕とし込んでゆく。

「ジャンヌ……っ」
「……ジル……出して……お願い……」

救いを求めるような声が青年の唇を吐き、その意を汲んで少女が微笑み──内に収めた男の形を蜜襞がとどめとばかりに締め上げた。

「ジャンヌ……くぅっ……ああああっ!」

反射的に青年の腰が反り返り、獣じみた叫びがジルの喉を震わせた瞬間、少女の奥に喰い込んだ楔が膨れ上がり、火照った肉壁へと濃厚な精を迸らせる。

「ジ……ルっ……ふぁあああああ─────っ!」

彼が果てると、胎内に溢れ出るその命の奔流の熱さに、腰の奥から眩暈のするような快感と幸福感が駆け上がる。
一度既に吐き出したばかりだというのに、彼女の内に流れ込むそれの勢いは衰えというものを知らず、雅やかな青年とは別の生き物のようにいやらしい拍動を繰り返し、白濁した蜜を噴き出し続ける。

「……ジャンヌ……っ」
「ジル……」

力尽きたジルが彼女の傍らに倒れ込む。そしてジャンヌもまた、自らの内を己が色で塗り潰さんとするばかりに注ぎ込まれた男性の勢いに、絶頂の高みへと意識を飛ばしてしまったのだった。

 

◆◆◆

 

 

「……最後まで私がしたかったのに……結局またジルにリードされてしまいました」
「そうですか?私はいつも貴女に翻弄されっぱなしなのですが」

心地良い脱力感に浸りながら寝そべるジルの傍らで、シーツにくるまりながら、ジャンヌは今も不満げに頬を膨らませていた。

「そんなことありません!
ジルはいつも余裕たっぷりで!こういうことをする時だって、いつも涼しい顔しているじゃないですか!」

……結局、ジャンヌとしては自分ばかりが恥ずかしいところを見られている、というのが不満だったらしい。
それであんなに背伸びした事を自分にしたがったのかと思うと、逆に余計に可愛らしく思えてしまう。

「あ、ジル。笑いましたね。
私は真剣なんですよ!」
「ははは、すいません。貴女があまりにもおかしな方向に一生懸命なものだから、おかしくなってしまって……」
「もう!人の気も知らないで!
私だって、他の誰も知らない貴方の顔が見たいんです!」
「それはそれは。光栄の極みです」
「それに……私もされるばかりじゃなくて、貴方のために何かがしたいんです」

少女の切とした口調と表情に、ジルが目を見張る。

「ジャンヌ……」
「今の私は、救世主でも何でもない、ただのジャンヌですから……いつも貴方に守られてばかりで……」
「……いいんですよ。ただのジャンヌで。
私も今はフランス元帥でも男爵でもない、ただのジルですから」
「そんな!貴方は今でも最高の騎士様で、それに──」

言い募る少女の唇を、優しく人差し指で制すると、ジルは優しく微笑んだ。

「少なくとも貴女の前では、年甲斐もなく自分を抑える事が出来ない、哀れなただの男に過ぎません」
「ジル……」
「貴女の存在自体が私の救いです。
そんなに急いで大人になろうとしなくても、貴女は貴女のままでいいんですよ。
私が私のままでいることを赦してくれる、そんな貴女だからこそ、私は貴女を愛している」

額に口付けられて、強張っていた少女の身体から力が抜けていく。

「……やっぱりジルはずるいです」
「貴女よりは七つほど大人ですからね。大人は得てしてずるいものです」
「本当にずるい人……」

口では非難しつつも、ジャンヌの表情は柔らかい。

「何だか一人で悩んで盛り上がって疲れちゃいました──ありがとうジル。おやすみなさい」
「おやすみなさい、ジャンヌ。良い夢を」

安心したように安らかな寝息を立てはじめた少女の横顔を見て微笑んだ後、ジルもまた身体の奥に残る熱の余韻に心からの満足を覚えながら眠りについたのだった。

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